『悟り』と聞いて、貴方は何を連想するでしょうか。
諸兄の多くはおそらく釈尊(お釈迦様)を連想することでしょう。
菩提樹の下での悟りのくだりは、キリスト教徒でも知っていると思います。
悟りというと、
宗教家の教祖や高僧など特別な環境や修行によって
もたらされるものと考えている向きも多いでしょうし、
そもそもそんなことハナから考えていない生活者も多いと思います。
しかし、悟りとは社会にまみれ、
日々精一杯日常生活を営んでいるにものこそ到達する境地なのです。
宗教の教祖などはむしろ対極に位置するでしょう(あくまで個人の感想です)。
そして著者の赤峰勝人氏は、
悟りの境地に達した人です(あくまで個人の感想です)。
もちろん赤峰氏本人はそんな意識は持っていないと思うし、
そもそも自分で「悟った」と言っている人ほど
悟りの対極にいたりするものですが。
著者は、宇宙の循環を頭ではなく、魂で理解しているのです。
紛れもなく悟っているし、悟りの瞬間も、本書に記されています。
そもそも『悟り』とは何でしょう。
という話はそもそも、
ニンジンとも本書の内容ともまったく関係がないので
割愛をさせていただきます。
また私自身についていえば、
悟りには程遠い人間であることも付け加えておきたいと思います。
ようやく本題に入りますがまず、本書を読んで率直に受けるのは、
感動です。
著者は「百姓」であることに誇りを持ち、
半世紀以上、一度も百姓が嫌だと思ったことが無いといいます。
そして「百姓」という言葉がなぜ差別用語になっているかが、
不思議でならないとも。
『百姓は私の天職。』
第一章の、書き出しです。
いまの仕事が私の天職です、と
貴方は胸を張って言い切れるでしょうか。
私の個人的な話で言えば、
言い切ることはおろか未だにこれが天職だという仕事が、
振り返ってみると、残念なことに無いのです。
むしろ天職を探すのが天職かも、
などという冗談がまったく笑えない中年になった今、
小学校六年生の六月十一日に百姓になることを決意し、
そして50年以上、天職として農業を続けてきた著者に、
ただその一点を以ってしても敬服をするのであります。
長年その道一筋の職人の仕事が、
こうも美しく見えるものかと震えるような感動を覚え、
不覚にして気づかずぬうちに涙がこぼれているような、
いや、それ以上の感動が本書には詰まっているのです。
農薬と化学肥料を使う近代農法で成功を収めた著者は、
一時は天狗になるものの、だんだんと収量を減らし、
病気になっていく農作物に悩まされます。
そんな時にたまたま参加した講演会で、
後の無農薬農法へ転換するきっかけとなる
米澤晃氏と出会うのです。
米澤氏の農法は「近代的」無農薬農法で、
土を分析し、堆肥と化学肥料を使って理想の土を作り出す、
いわば「化学肥料を活用」した「無農薬」農法でした。
当時の著者もこの農法に感銘を受け、
これを実践することで、新たな活路を見出します。
しかし、偶然立ち寄った書店で手に取った
有吉佐和子氏の「複合汚染」を読んで、
いよいよ現在の著者へとつながる、
「無農薬・無化学肥料」の農法に進む決意をするのです。
試行錯誤を繰り返し、借金を重ね、
ついに無農薬・無化学肥料農法が完成する頃には
12年の歳月が過ぎていました。
そして翌年。
何気なく間引いた一本のニンジンをきっかけに、
著者は悟りを開くのです。
「宇宙に存在するものはすべて循環している!」
という光のような衝撃とともに、
魂がふるえるような感動を覚えるのです。
これは紛れも無く著者の悟りの瞬間です(あくまで個人の感想です)。
悟りの瞬間が記された書籍というものは、そう多くはありません。
悟ったフリをしているニセモノは数多(あまた)ありますが。
その意味だけにおいても、
悟りの追体験ができる本書は、読む価値があると言い切れるのです。
ある日。
何かに導かれるように突然、
アトピーに悩む女性が著者の畑を訪れます。
そもそも、アトピーってなんやねん、
という当時の著者の元に訪れた女性をきっかけに、
著者の人生は大きな使命へと導かれていくのです。
そしてその後、のべ一万人のアトピー患者をはじめとする、
深刻な健康上の悩みを持つ人々の、食事指導をするのです。
ここまで長々ととりとめのないない感想を書いてきましたが、
実はこの時点でまだ、全体の1/3しか読み進めていないのです。
本書の中盤1/3は、長年の著者の食事指導の経験に基づく、
食事法についての考察が主となります。
身土不二を心がけ、
生きた命がいっぱいつまった旬のものを食べ、
玄米を食べ一物全体食を心がけ、
天然の塩を積極的に摂り、
一日二食にし(三食は明らかに食べ過ぎ)、
白砂糖や合成甘味料は極力避け、
天然塩を使った発酵食品を積極的に摂り、
という、食生活に心配りをする賢明な諸兄にとっては、
既に常識、もちろん実践してますよねという事柄を再確認することができます。
余談ですが、なんとなく体調が優れない、という向きはまず、
朝食を抜くことから始めることを推奨します。
私自身もまた、十数年前から基本的に朝食をやめたのですが、
当時体重90Kgの肥満、痛風、糖尿病、脂肪肝、高脂血症、高血圧、
すべての生活習慣病(予備群含む)を完全に克服しました。
私自身の少ない経験の範囲ではありますが、
どこか調子の悪い人は、食べ過ぎに起因することが多いと思います。
同時に、食品添加物の過剰摂取やミネラル不足も疑うべきでしょう。
癌
という字は、やまいだれに、品(3つの口)に山と書きますが、
山のような品数を食べたり、3食山のように食べたりするのが、
癌になる原因のひとつであるということを昔の人は知っていたので、
このような漢字になったのでしょう。
毎日、3食欠かさず喰べている人は従来の(洗脳的)常識を取り払い、
まずは1日2食にするこをオススメします。本当に、体調が良くなりますよ。
余談ですが、私の周りでは、ほとんどの人が1日2食か1食です。
そして後半1/3は宇宙の循環についての具体的な例を示し、
また昔ながらの農村の原風景を知る団塊の世代に向け、
この循環を取り戻すムーブメントを起こすために、
ぜひ立ち上がって欲しいと促しています。
確かに行動力もパワーもお金も時間も持っていて人数も多い団塊の世代が、
牙を抜かれて従順に飼い慣らされ人数も少ない若い世代に代わって声を上げれば、
もしかしたら世の中が変わっていくかもという可能性に、淡い期待が持てるのです。
初版が2009年の本書を私自身が読んだのは2015年のことですが、
もっと早く読んでおきたかったと思うと同時に、
本書に出会えて、本当によかったと思うのです。