いまでこそ数多存在する「お米の食べ比べセット」。
たまたま、お米の食べ比べセットの企画に携わることになり、
そういえばこの「お米の食べ比べセット」ってどこがはじめたんだろう、
と調べてみると、どうやら雑誌「自遊人」がはじめたらしいのです。
実はきちんと読んだことがなかった「自遊人」。
創刊24周年ときいて、ずいぶんと歴史がある雑誌なのに、
一度も読んだことない雑誌って他にも沢山あるんだろうなぁ。
そんなことを考えながらサイトを見てみると、
自遊人の編集長でもある岩佐十良(とおる)氏が手がけた
「里山十帖」という宿が目に留まりました。
あれ、どこかで聞いたことあるなと記憶を辿ると、
非常に感度の高い知人が、最近泊まってすごくよかった宿、
として名前を挙げていたことを思い出しました。
そんな連想の繋がりから、本書を手に取りました。
もともと雑誌の出版から食品販売事業を展開し、
そんななかで日本の食文化の根幹である米がつくられている現場を、
「自分たちの目で見て学びたい」と新潟県南魚沼市に本社を移転。
この時点でも相当な変わり種ですが、
すべてはこの「里山十帖」へ繋がる道筋だったのではないかと、
考えざるを得ないような、縁と流れを感じました。
銀行に100%失敗すると太鼓判を押され、
途中で融資を引き剥がされながらも、
なんとか開業へ漕ぎ着けるまでの当に奮闘ぶりが、
生々しく綴られています。
1億円の予算で始めたリノベーションが、
予想以上の施設の痛みや豪雪対策などで、
蓋を開けてみると3億円超の費用がかかることが判明します。
客室はたったの12室。
地元の人でも知る人の少ないマイナーな温泉地で、
それだけの投資をしてリノベーションをして、
果たして勝算があるのか。
ある意味奇跡といってもいい成功例
(まだ2年目なので余談は許さないと著者自身も語るものの)、
この奇跡を起した思考法を、具体的な事例を挙げながらこれを、
「デザイン的思考」として提唱しています。
「デザイン的思考」をひと言で表すと、
「現状の閉塞感を打破するための、従来とは異なる思考アプローチ法」
であると著者はいいます。
そしてもっとも重要なスタート地点は「データを見ないこと」。
ありとあらゆる白書もマーケティングデータも見てはいけない。
対象となる事象をとにかく自分で体験してみることから始める、
しかも自分の興味や趣向に走らず俯瞰して体験することであると。
詳しい内容は本書に譲りますが、
要するに前例とかデータにとらわれていて、
イノベーションが起こせるわけがないという話と、
かといって勘ピュータだけで成功するわけでないという話。
しかしながらやっぱり勘ピュータは大事だなという(笑
岩佐氏だからこそ実現ができたという側面も多分にしてある
思考法であることは留意しなくてはならないでしょう。
しかしながら閉塞感に満ちた現在の日本においてこそ、
このデザイン的思考を取り入れるイノベーターが増えてくれると、
地方はもっと元気になり、そして日本はもっと元気になる。
本書を読んで、第二、第三の岩佐氏が立ち上がり、
地方を、そして日本を、元気にしてくれる原動力になってくれる!
という期待を込め、他力本願な自分への戒めとして
静かに本書を閉じるのでありました。